今回は事例を通じてAIモデルのつくり方を説明したい。その事例とは、医療材料メーカー様で生産計画と生産・配送プロセスを全自動化しようというものである。具体的には、生産計画を数理最適化問題として解き、国内外の自社工場の生産、そして倉庫での管理と輸送を最適化するものだ。因みに、「数理最適化」とはある条件に対して最も良い数値やアクションを決定するための道具であり、機械学習の一つの分野である。
このようなニーズに対して、いきなり全てを自動化しようと考えると理由が分からなくなる。ではどうするのか。問題を複数のプロセスに分解して取り組んでいくことが重要だ。まず初めに、将来の製品需要について予測する。そして、その需要予測であれば最適な生産計画はこのようになるだろう。さらに、この生産計画であれば倉庫における配置と輸送はこうなるだろうという、という具合だ。
このように問題を切り分けて一連のプロセスに分解して、それぞれのプロセスを最適化。そしてこれら最適化したプロセスをつなげていくことで、業務全体の自動化が図れることになる。

ここで重要な要素がある。それは「人の判断を支援するAIモデルをつくるのか」、もしくは「コンピュータに自動で判断させるためのAIモデルをつくるのか」ということである。言い換えれば、「人間を補助する道具なのか」、「完全自動化できれば良いのか」といえる。AIモデルを利用する上で大事な要素して、「分かりやすさ」というものがある。特にPDCAを回す際は共感がないと難しい。一方、「精度が大事であり中はブラックボックスで良い」という意見もある。これは「統計学」と「機械学習」の違いということもできる。
筆者の経験では、AIモデルは意思決定支援に利用するもので、分かりやすさが求められることが多い。PDCAを回す上で仕組みに対する合意形成が重要だからだ。特に今回の事例のように生産計画と生産・配送プロセス全体を自動化しようとする場合はなおさらだろう。一方、「機械が良しなにやってくれて、数値を当てられれば良い」という要求もある。例えば株価や為替が今後どのように推移するのか当てて欲しい、などというものはブラックボックスでも良いのかもしれない。

このように考えると、やはりまずは分かりやすいモデルを構築して、そのあと自動化システムを作っていくというプロセスを推奨したい。双方を同時につくることはできないのだ。一方、企業側の予算と期間の関係で、「数値を当てられればそれで良い」というモデル構築を依頼されることもある。「分かりやすさ」と「ブラックボックス」。AIモデルも双方があることをご理解いただけるといいだろう。
執筆者プロフィール

戸嶋 龍哉(トジマ タツヤ)
The ROOM4D 代表取締役
長岡技術科学大学で情報工学系、特に自然言語処理やデータ分析に関わる分野を専門として学ぶ。ドリコムでソーシャルゲーム分析に従事。その後、DATUM STUDIOに創業期から参画し、幅広い分野のAIモデル構築やシステム開発を経験。2019年8月、The ROOM4Dを共同で設立。
こちらの記事は「週刊BCN+」に掲載(2022/11/25 )しております。