【現状のAIでできること、できないこと・2】因果をつくる

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前回は、AIモデルの構築に前処理が重要な役割を占めることを紹介した。実際に前処理は全工数の7割から8割を費やすのだが、今回は前処理で因果を作るということについて触れたい。なお、因果とは原因と結果である。 ある結果には、必ずそれに対する原因があるという法則だ。

今回の事例は、小売業で店内のセンサーログから顧客の行動を可視化して欲しい、というニーズから実現した。具体的には店舗にセンサーを設置して顧客のスマホから通過データを受信することでデータを取れるようにした。

ここで問題になるのがログの使い方である。例えば滞在時間を使うというアイデアがある。入店時間と退店時間の差が滞在時間で、その時間の長い顧客はこの店のファンかもしれない。こういった時間軸のデータを使ってクラスタリングすると滞在時間の長さで顧客が分類される。

しかし、このデータは役立たないかもしれない。長く滞在していても購入がない顧客、短い滞在時間でも購入している顧客があるからだ。一方、センサーをマス目に分けたポイントに設置して経路をとるというアイデアもある。時間軸の概念ではなく、経路だけでデータをとるという方法だ。とはいえ、人の実際の動きは単純ではない。来た経路を戻ってみたり、同じ場所を何度も行き来したりもする。

また、センサー間の真ん中にいた場合は双方のセンサーが反応してしまう。そういったデータを前処理できれいにするのである。そうすると入店から退店までの顧客の導線が可視化できる。そして人数の多さで導線に強弱をつける。この太い線は人が多く通った導線という具合だ。ただ、この情報だけでは役に立たない。「この太い導線に売れ筋の高額商品があると思う」などという分析では意味がないからだ。

ではどうするのか。実はここで因果をつくることで分かることがある。それは時間軸で因果を作ることだ。時間軸の前と後では事象は絶対にひっくり返らない。前月のこの導線を通った顧客の売り上げを当てはめてみる。こうすることで、この動きをした顧客の翌月の売り上げが分かる。翌月の売り上げの多かった導線には、顧客が満足して再度来店してくれる何かがあるのである。あとは、この導線に何があり顧客が満足したのかを推測することになる。

この事例は、顧客が店舗内でどのような行動をとっていたのかを解析するための行動解析アルゴリズムである。顧客がどのような導線をたどってレジに向かったのか、どの範囲を移動したのかが把握できれば店内の棚の商品配置を最適化し、売り上げを伸ばすことが可能になるのである。

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執筆者プロフィール

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酒巻隆治(サカマキ リュウジ)

The ROOM4D 代表取締役

専門は人間が環境に残す各種行動・購買ログの解析。慶応義塾大学、同大学院で人工知能を専攻。東京大学大学院で博士号を取得。KDDI、楽天技術研究所、ドリコムを経てDATUM STUDIOを設立、売却を経験。2019年8月1日、The ROOM4Dを設立。

こちらの記事は「週刊BCN+」に掲載(2022/5/27 )しております。

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